さに、すくっと伸びていた。
陽子を待ちわびている春隆には、べつに心をそそるほどの魅力でもなかったが、やはりふとその後姿に眼が注がれて、じっと見送っていたので、いきなり貴子がひきかえして来ると、さすがにあわてたのだ。
いきなり……だが、しかし、のっそりと貴子ははいって来ると、声もしずかに、
「この次いらっしゃる時は、お一人でいらっして下さいね」
北海道生れだが、案外訛りのすくない言葉で言って、またしずかに出て行った。
貴子は、同時に何人もの男をつくるのは平気であったが、その代り、その埋め合せといわんばかしに、男が何人も女をつくるのには平気でおれなかった。何人も女をつくる男は不潔だと思うことが、この何人も男をつくる女の潔癖を辛うじて支えているのだろうか。
しかし、彼女にとって幸か不幸か、この潔癖を満足させてくれるような男は、ついぞこれまで一人も現れなかった。
すくなくとも、田村へ来る男は、一人ではめったに来なかった。表向き料理店だが、その実連れ込み専門の貸席旅館だから、女を連れずに来る男もいなかったわけだ。
貴子は大阪で経営していたバーが焼けてしまうと、一時蘆屋の山手のしもた
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