漂うくらい、個性が強く、彼のねらう構図にはつねに夜が感じられて、ふとデカダンめいたが、今夜の陽子と茉莉の写真も「夜のポーズ」という彼の好みのテエマにふさわしかった。
しかし、美しい陽子をわざと最も醜いポーズで撮り、茉莉の倒れた姿に醜悪なポーズを見出したのは、単なる好みだけだろうか。ほかの場所では、それほどまでにしなかった筈だ。
つまりは、彼のホールぎらいのせいだ。それというのも、亡妻がダンサーだったからである。
亡妻の名は八重子といった。
学生の頃の木崎が八重子と知り合った時は、しかし八重子はもうダンサーではなく、阪神間のあるホテルの受付で働いていた。
四年の長い恋愛ののち結婚した木崎はダンスは出来ず、彼女もダンスレコードは集めたが、踊りたがらなかった。二年たって、八重子は軽い肺炎に罹り、南紀の白浜温泉に出養生した。ある日、彼が見舞いに行くと、八重子は旅館のホールで見知らぬ男と踊っていた。クンパルシータだった。咳をしながら、しかしうっとりと踊っていた。
はじめて妻のダンスを、しかも、自分以外の男に抱かれて踊っている姿を見た途端、木崎はダンサー時代の妻が、毎夜抱かれて踊った男
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