京吉に茉莉との関係をきいたが、何でもない仲だと判ると、二三人の事務所関係の者につづいて陽子にも訊問した。
「茉莉は何でもあたしに打ち明けていましたが、死ぬような事情なぞききませんでしたわ。茉莉に死ぬような悩みがあったのでしょうか」
陽子は逆に質問した。
稼ぎ高は多かったから、生活苦でもない。男との立ち入った関係も、噂に上るようなものはなさそうだ。
警官が要領を得ずに引きあげて行くと、やがてラストのグッドナイトの曲が聴えて来た。
京吉は陽子を事務所の隅へ連れて行った。
「おれとうとう泊る所がなくなったよ。今夜泊めてくれよ」
「だめよ。あんた今夜茉莉に借り切られてるんでしょう。お通夜してあげなくちゃ……。お通夜すれば、茉莉のアパートに泊れるわよ」
「それもそうだな。じゃ、そうしよう。その代り、こんどの土曜日泊めてくれるだろう。ねえ、おれ泊る所がねえんだよ。ねえ」
子供が駄々をこねているようだった。陽子は微笑しながら、あいまいにうなずいた。
「お通夜、おれ一人じゃ心細いや。陽子もお通夜に行くんだろう……?」
「ええ。でも、あたし、ちょっと遅れるかも知れなくってよ」
「どっかへ行くの
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