しまった。しかし、その時、電話が掛ってきて、
「M署……?」
 とききかえしている電話口の女中の声を聴いた途端、はや銀造の眼はピカリと光り、青ざめた顔を緊張が走った。
 丁度その頃、京都駅では、二十一時に大阪を出た東京行き急行列車がホームにはいり、昼間しめし合わせた乗竹侯爵と落ち合った貴子が、東京の女友達と一緒に、二等車へ乗ろうとしていた。

      四

 大阪からその汽車に乗っていた章三は、貴子たちが二等車にはいって来たのを見て、ニヤリと凄い微笑を泛べた。
「やっぱりおれの思った通りや」
 貴子は今日の昼間、夜の九時頃に立つといっていたが、その時間に出る東京行きの急行はこの二十一時大阪発の一本しかないと、章三は田村から大阪へ帰った足で、すぐ切符の手配をして、その汽車に乗り込んだのだった。
 もっとも、貴子がただ女友達と二人きりで乗ったとすれば、章三のその計画も無意味なものになってしまうところだったが、案の定貴子は上品な顔立ちの青年と二人空いた座席へ並んで腰を掛けた。その青年の顔を一目見るなり、章三は、
「あいつやな、乗竹侯爵は……」
 と、疑いもなくピンと来て、自分の勘の適中に
前へ 次へ
全221ページ中181ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング