らしがなくなっていた。

      三

 銀造を乗せた人力車夫は、見掛けは上品な顔だちだったが、車賃だけでは食って行けぬのか、怪しげな周旋もするらしく、旦那は木屋町へ行ってヤトナを買うのか、ヤトナは芸者よりは安いようで結局高いものにつく、それよりも、もっと安直で面白い所を紹介しようか――と、しきりにすすめるのだった。
「お銚子が一本ついて、タイムどしたら、百円でお釣りが来るのどっさかい、安おっしゃろ。それに、女は満州から引揚げて来た素人の女ばっかしで……」
 場所もM署の裏手だから、燈台下暗しで、かえって安全だという車夫の言葉を、銀造は辛い想いで聴いていた。
 引揚げとか、警察とかいう言葉は、銀造にとっては余りに身近な言葉だった。貴子に挑んで拒まれ、田村を飛び出してからの銀造の生活はうらぶれの底に堕ちていたが、しかし、さすがに大阪商人らしい気概は残っていたのか、おれも昔はひとかどの鉄屋だった。今に見やがれ、あの女を見返してやると、大阪の闇市の片隅で煙草を売り、握り飯を売り、砂糖を売り、酒を売り、その酒がメチルだったのだ。
 メチルとは知らずに売ったが、それでも人が死ねばやはり過失致
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