、おめえ、これだろう……?」
と、腹の上に半円を描いた。
「京ちゃん、判るの……?」
おシンはびっくりしたような眼を、くるくる廻していた。誰にも勘づかれなかったのにと、若いくせに女の体に敏感な京吉の眼が、気味悪くもあり、頼もしくもあった。
「困ってンだろう……?」
「はばかりさま。ちゃアんと父親は……」
「あるのよ」――と言いたかったが、誰だか判らず、おシンは坂野の細君にだけは、ひそかに打ち明けていた。坂野の細君もどうやらそれらしかった。祇園の方に、簡単に手術してくれる医者があるらしく、紹介してやると坂野の細君は言っていた。細君もおろす肚だったのだ。ところが、昨夜逃げてしまったので、おシンはもう諦めていた。
「月が早けりゃ、注射一本でも平チャラだよ。坂野さんに打って貰ったらいいよ。ねえ、おシンちゃん。そうしろよ」
坂野さんは注射薬なら何でも持っているからと、言って、京吉は、
「京ちゃん、たまにいらっしゃいよ」
おシンのゲタゲタした笑い声を背中にきいて、清閑荘を出て行った。
チマ子のことは少しは気になっていたが、しかし、もう一度坂野の部屋へ戻って、木崎から事情をきこうという気に
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