身上相談欄で悪徳巡査のことを読んでたので、まるで自分の細君が巡査と逃げたような錯覚を起していたせいか、ふと警察への得体の知れぬ反撥を感じていたようだった。
「――用事があれば、向うからやって来まさアね。ね、木崎さん。悪いことさえしなきゃア、警察なンて、自転車の鑑札以外に用はねえや。――断っちゃえ。留守だよ、木崎三郎旦那は留守でござんす」
「あんたに言ってないわよ。木崎さん早く行ってよ。あたし叱られるわよ」
 しかし、坂野がなかなか針を抜かないので、おシンは、
「――知らないよ。叱られたって」
 そう言いながら、バタバタと尻を振って出て行った。

      六

「あ、一寸、おシンちゃん!」
 坂野のふざけた調子を面白がっていた木崎も、さすがに少しは気になって、おシンを呼び戻そうとした時は、おシンはもうチャラチャラと階段を降りていた。
 京吉はそんな容子をにやにや見ていたが、急に、
「おれ帰るよ。ヒロポンもりもり効いてやンね。辛抱たまりやせんワ!」
 と、起ち上ると、はや麻雀のパイの、得意の青の清一荘(チンイチ)の頭に浮んだ構図にせき立てられるように、
「――さいなアら! 御免やアす」
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