のだろうか。いずれにしても私は聞いて口惜しかった。けれど、いいえ、そんな風には考えたくなかった。矢張り見合いは気になっていたのだが、まだいくらか時間の余裕はあったから、少しだけつきあって、いよいよとなれば席を外して駈けつけよう、そんな風な虫のよいことを考えてついて行ったところ、こんどはその席を外すということが容易でなく、結局ずるずると引っ張られて、到頭遅刻してしまったのだ――と、そんな風に考えたかった。つまりは底抜けに気の弱い人、決して私との見合いを軽々しく考えたのでも、またわざと遅刻したのでもないと、ずっとあとになってからだが、そう考えることにした。するといくらか心慰まったが、それにしても随分頼りない人だということには変りはない。全くそれを聞かされた時は、何という頼りない人かとあきれるほど情けなかった。いや、頼りないといえば、そんな事情をきかされるまでもなく、既にその見合いの席上で簡単にわかってしまったことなのだ。遅刻はするし、酔っぱらっては来るし、もうこんな人とは結婚なんかするものかと思ったが、そう思ったことがかえって気が楽になったのか、相手が口を利かぬ前にこちらから物を言う気にな
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