。すると、あの人は急に悲しい顔をして、八木沢君にはいま金もって行ったから、それで済んだと言った。そのお金はどうしたんですか、どこでつくったんですか。そう言いながら、ふとあの人の胸のあたりを見ると、いつもと容子がちがう。驚いてオーバーを脱がせた。案の定、上着もチョッキもなかった。質入れしたのだ、ときくまでもなくわかり、私ははじめてあの人を折檻した。自分がヒステリーになったかと思ったくらい、きつく折檻した。しかし、私がそんな手荒なことをしたと言って、誰も責めないでほしい。私の身になってみたら、誰でも一度はそんな風にしたくなる筈だ。といっても、私の言ってるのは、何もただ質入れのことだけじゃない。あの人は私に折檻されながら、酒をのんでるわけでもないのに、いつの間にかすやすやと眠ってしまった。ほんとうにそう言う人なのだ。それを私は言いたいのです。結果があとさきになったけれど、誰だってそんな風に眠ってしまうあの人を見れば、折檻したくなるではないか。少なくとも小突いたり、鼻をつまんだり、そんな苛め方をしてみたくなる筈だ。嘘と思うなら、あの人と結婚してみるがいい。いいえ、誰もあの人と結婚することは出来
前へ 次へ
全27ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング