いているうちに、ひょっくり、別の友達に出くわし、いきなり、金貸してくれと言われるが、無いとも貸せぬともあの人は言えぬ。と、いって、はじめの人に渡すつもりの金ゆえ、すぐよっしゃとはさすがに言えず、しばらくもぐもぐためらっている。が、結局うやむやのうちに借りられてしまうのである。
ところが、はじめのうち誰もそんな事情は知らなかった。わざわざ大阪まで金策に行ったとは想像もつかなかった。だから、待ち呆けくわされてみると、なんだか一杯くわされたような気がするのである。いやとは言えない性格だというところにつけこんで、利用してやろうという気もいくらかあったから、ますます一杯くわされた気持が強いのだ。金貸したろかなどという口癖は、まるでそんな、利用してやろうなどといういやしい気持を見すかしてのことではなかろうかとすら思われたのだ。しかし、やがてあの人にはそんな悪気は些かもないことがわかった。自分で使うよりは友人に使ってもらう方がずっと有意義だという綺麗な気持、いやそれすらも自ら気づいてない、いわば単なる底ぬけのお人よしだからだとわかった。すると、もう誰もみな安心して平気であの人を利用するようになった
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