チャー坊はまだ子供だからな」
「そうかな。俺アもうチャー坊は一切合財知ってると思ってたんだが……」
「しかし、まだ十七だぜ」
「十七っていったって、タカ助の奴なんざア、あら、今夜はシケねなんて、仰有ってやがらア。きゃつめ、あの二階を見るのがヤミつきになりやがって、太えアマだ」
「太えアマは昨日の娘だ。ありゃまだ二十前だぜ」
「二十前でも男をくわえ込むさ」
「ところが、一糸もまとわぬというんだから太えアマだ」
「淫売かも知れねえ」
「莫迦、淫売がそんな自堕落な、はしたないことをするもんか。素人にきまってらア」
「きまってるって、ははあん、こいつ、一糸もまとわさなかった覚えがあるんだな。太え野郎だ」
 そんなみだらな話を聴いていると、ふと私は殺された娘のことが想い出された。楽屋裏の溝の中で死んでいたのは、レヴュ好きの彼女には本望であったかも知れないなどとは、いい加減な臆測だ。犯されたままの恥しい姿で横たわっているのは、殺されるよりも辛いことであったに違いない……。
「花屋」を出ると、私は手拭を肩に掛けたまま千日前の通りをブラブラ歩いて、常盤座の前の「千日堂」で煙草を買った。
「千日堂」は煙
前へ 次へ
全29ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング