似るべき恋愛のモデルを知らないのである。知っていれば、見栄坊の彼のことだから、そのモデルに従って颯爽と行動することは面白いと思ったかも知れない。それもしかし、彼の記憶の中に根強くはびこっている或る種の嫌悪は、彼が足を踏み外して取乱すことだけは食い止めたに違いないが。つまり彼は流行外れの男だったのである。どんな愚劣な人間でも大した情熱もなしに苦もなくやり遂げて見せることが、彼には出来なかったのだ。だから愛情にかられるということが必要であった。ところが彼は愛情の前で奇妙な困惑を感ずる男だった。人に愛された経験がないのである。自分は人に愛される覚えはないと思い込んでいるのである。
 豹一は何のために散歩しているのかわからなかった。元来彼は何ごとにつけても、自尊心の満足ということ以外には意味をつけることは出来ず、お駒との散歩もむろんそこから出たものだったが、たいした効果はなかったのである。一緒に歩いているところを誰かに見て貰えば、それで自尊心が満足されると思っていたところ、見られたために却って自尊心が傷ついてしまった。
 ある日、植物園を散歩していると、北園町から自転車で通学している桑部という
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