阪貯蓄などに月掛けしているものが、満期にならないうちに掛けられなくなったり、満期になったが、金を取るまでの日数を待ち切れなくなった場合、安二郎がそれを相当の値で買いとってやるのである。掛け金の額からは無論がちんと差引くから、あとでゆっくり安二郎が手続きして金をとればぼろい儲けになると、かねがね目をつけていた商売だった。
 質札の方は、ただの二円、三円で買いとってやるのである。それをもって安二郎がうけ出しに行き、改めて古着屋や古道具屋へ売る。質札の額面五円の着物ならば、古着屋へは十二、三円から十五円、二十円にも売れる故、質屋へ払う元利と質札を買った金を差引いても、残りの利益は莫大だった。貧乏人の多い町で、よくよく金に困って、質草もなくただ利子に追われている質札ばかり増えるのを持て余している者がちょっとやそっとの数ではあるまい。だから目先のことだけ考えれば、どうせうけ出しも出来ぬ質札が金になるときけば有難がってやって来るだろう。その足許を見て二束三文で買いとってやるのだと、随分前から安二郎は此の商売をやりたがっていたのである。
 ところが現在の家ではさすがにその商売は出来なかった。高利貸め
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