いて、豹一はその上に膝をついていたのだった。
 その日、産声が空に響くようなからりとした小春日和だったが、翌日からしとしと雨が降り続いた。四畳半の部屋一杯にお襁褓が万国旗のように吊された。
 お君は暇を盗んでは、豹一のところへしげしげとやって来た。
 火鉢の上へかざしたお襁褓の両端を持ちあいながら、豹一とお君は、
「乳母車《おんば》を買わんならんな」
「そやな」
「まだ乳母車は早いやろか」
 そんな風なことを話しあった。やがて、お君は、
「早よ帰らんと叱られるさかい、帰るわ」そう言って立ち上り、買って来た赤ん坊の玩具をこそこそと出して、友子の枕元に置くと、また来まっさ、さいなら。
 雨の中を帰って行った。
 一雨一雨冬に近づく秋の雨がお君の傘の上を軽く敲いた。



底本:「定本織田作之助全集 第二巻」文泉堂書店
   1976(昭和51)年4月25日発行
   1995(平成7)年3月20日第3版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林繁雄
校正:伊藤時也
2000年3月18日公開
2005年10月12日修正

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