いているだけです」
すらすらと言葉が出た。その言葉が紀代子の自尊心をかなり傷つけた。
「不良中学生! うろうろしないで、早くお帰り」
「勝手なお世話です」
「子供の癖に……」と言い掛けたが、巧い言葉も出ないので、紀代子は、
「教護聯盟に言いますよ」
近頃校外の中等学生を取締るために大阪府庁内に設けられた怖い機関を持ち出して、悪趣味だった。
「言いなさい。何なら此処へ呼びましょうか」そう言う不逞な言葉になると、豹一の独壇場だった。
「強情ね、あんたは。一体何の用なの」
「用はない言うてまっしゃろ。分らん人やな、あんたは……」大阪弁が出たので、少し和かになって来た。紀代子はちらと微笑し、
「用もないのに尾行るのん不良やわ。もう尾行んときね。学校どこ?」大阪弁だった。
「帽子見れば分りまっしゃろ」
「見せて御覧」紀代子はわざと帽子に手を触れた。それくらい傍に寄ると、豹一の睫毛の長さがはっきり分るからだった。
「K中ね。あんたとこの校長さん知ってんのよ」
「言いつけたら宜しいがな」
「言いつけるわよ。本当に知ってんねんし。柴田さん言う人でしょ?」
「スッポンいう綽名や」
いつの間にか並ん
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