そして、女中と二人で留守番をすることになった。
念入りに化粧して、そわそわと出て行った多鶴子の後姿を見た瞬間から、豹一の心は胸苦しく立ち騒いだ。
散らかした鏡台を跡かたづけしている女中の顔を見ていると、今しがたまでその鏡に映っていた多鶴子の顔の美しさが想い出された。その美しい顔で誰と会うているのかと思うと、彼の眉のまわりににわかにけわしい嫉妬が集って来た。
落日の最後の明りが窓硝子を去った。あたりが薄紫色に沈んでしまうと、多鶴子と離れている時間がひしひしと迫って来て、豹一の心を滅入らせた。
電燈がついた。多鶴子はまだ帰って来なかった。豹一は町へ出掛けることにした。
南海電車で難波まで来た。そこから、心斎橋筋の雑閙のなかを北の方へ歩いて行った。ついぞこれまでなかったことだが、今夜の豹一はすれ違う男たちの顔が眼について仕方がなかった。なんというおびただしい数の男だろう。その男たちのうちには、多鶴子と踊った者もいるに違いない。また、多鶴子の映画を見てひそかに不逞な想像をしていた者もいるだろう。
(おれは村口多鶴子の恋人だ!)という自負心の満足はしかしちっともなかった。それどころか
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