咐たり出来なかったのだが、急いでいたから、先輩たちの口調を真似てそう呶鳴った。だが、悲しいことには、彼はまだ新米だと見られていた。おまけに若い。誰も鉛筆を持って来なかった。豹一は赧くなった。すると、
「よう、鉛筆だよ!」豹一のところへ、鉛筆を持って来てくれた男がある。見ると、土門だった。
「あ、済みません」豹一は嬉しかった。
「金貸してくれ! 五十銭で良いよ」いつものでん[#「でん」に傍点]だと苦笑しながら、机の上に五十銭銀貨を置くと豹一は再びザラ紙の上へ尾行記を書き続けて行った。
土門は銀貨をズボンのポケットに入れながら、
「いこう熱心でげすな。いったい何の記事?」訊ねかけて、豹一が答えぬ先に、「あ、なるほど。村口多鶴子の……。代役恐縮だね。あはは」笑った。豹一はふと顔をあげて、
「村口多鶴子っていったいどんな女優なんですか? なにをしたんですか?『罪の女優』ってなんのことですか?」ほかに訊く人もなかったから、土門と顔を合せたのを良い機会だと思って、訊いてみた。
「おや? 知らないのか? こりゃ愉快だね。村口多鶴子の一件を知らん新聞記者がいるとは愉快だよ。ことにそいつの尾行を書くっ
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