、興奮していたのである。
「……九十四、九十五、……」
 相変らず、いやな声を出していた。
「……九十六、九十七、……」
 あと三つで百だと思うと、むしろ情けなかった。百になれば、女の手を握らなくてはならない。この死ぬほどの辛さと来ては、百ぺん失業した方がましだと思うぐらいだった。
 だいいち豹一にはついぞこれまでどの女の手を握った経験もない。友人と握手するのさえ照れる男である。それが初対面の女の手をいきなり握ろうというのだから、いってみれば無暴だった。しかも豹一は坐っていて、女は立っている。物かげでこっそり握るというわけにはいかなかった。衆人環視のなかである。たとえどさくさまぎれで握るとしても少くとも二つの眼だけはそれを見逃すまい。挑み掛るようにじっとこちらを睨んでいる二つの眼、――いまさき煙草の銀紙をまるめて投げた男だ。しかし、それよりも豹一がおそれているのは、手を握ろうとして女にはねつけられた場合のことである。
「いやな人!」と、逃げられたら、自尊心を傷つけられた想いに先ず当分は悩まなくてはならない。いや、逃げられるぐらいならまだ良い方だ。「キャッ!」と、声を立てられたりなぞすれ
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