(百数えて、これが実行出来なければ、お前はおしまいだ! 一生人に軽蔑され続けるんだぞ。それでも良いか? お前の母親は辱しめられたんだぞ)
もうあとへ引けないと思うと、豹一はだんだん息苦しくなって来た。銀紙を投げた男はいまにも飛び掛って来そうだった。
(六十二、六十三……、六十七、六十八、……)
豹一ははげしく胸の音を聴いた。ついぞこれまで女の手を握ったことが無いのである。
「七十、七十一、七十二、……七十五、……」
はねつけられた時のことを考えると、だんだん勇気が挫けて来た。いきなり、豹一は声を立てて数えはじめた。
「七十六、七十七、七十八……」
女はあきれてしまった。(この人気違いではないかしら?)
豹一はもうそんな女の顔を見向きもしなかった。ただ、じっと男の顔をにらみつけていた。
「七十九、八十、八十一、……」
ルンバの騒音は豹一の声を殆んど消していた。が、豹一の真赤になった耳は自分の声と格闘を続けていた。
「八十一、八十二、八十三、……」
「らっしゃいませ」
「珈琲ワン」
「ありがとうございます」
「ティワン」
喧騒のなかで、豹一の声は不気味に震えていた。
「八十四
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