青春の逆説
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)漆喰《しっくい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)地蔵|盆《さん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)屡※[#二の字点、1−2−22]
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第一部 二十歳
第一章
一
お君は子供のときから何かといえば跣足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰《しっくい》の上を跣足のままペタペタと踏んで、
「ああ、良え気持やわ」
それが年頃になっても止まぬので、無口な父親も流石に、
「冷えるぜエ」とたしなめたが、聴かなんだ。蝸牛を掌にのせ、腕を這わせ、肩から胸へ、じめじめとした感触を愉んだ。また、銭湯で水を浴びるのを好んだ。湯気のふき出ている裸にざあッと水が降り掛って、ピチピチと弾み切った肢態が妖しく顫えながら、すくッと立った。官能がうずくのだった。何度も浴びた。
「五へんも六ぺんも
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