いか」と、引き止めた。
豹一は怖い顔をして、切符売場へ寄って行った。
「切符はいらんよ」土門が言った声も、殆んどきこえなかった。
黒い幕をあげて、なかへはいると、いきなり多鶴子の声だった。顔だった。肢態だった。幅のひろい、しかし痩せた肩をいからせ気味に、首をうしろへそらして、うっとりとした眼で、男に取りすがり、
「…………」
なにを言ってるのか、豹一にはききとれなかった。涙がいっぱいの気持だった。なまなましい多鶴子の肢態の記憶が豹一の胸をしめつけていた。痛いような嫉妬が、多鶴子の白い胸のホクロひとつにまで哀惜を覚える心とごっちゃになって、豹一は身動きもせず、じっとスクリーンを見つめていた。
だんだんたまらなくなってきた。
写真のなかの多鶴子はピストルを握って、男に迫った。
「こりゃ。良きじゃね」
土門が豹一に囁くために、ふと横を向くと、いつのまにか豹一の姿が見えなくなっていた。
五
小屋を出るとすっかり夜だった。盛り場の灯がチリチリと冷たく、輝いていた。
豹一は薄暗い電車通に添うて、谷町九丁目の方へ帰って行った。
下寺町の坂下まで来ると、急にぱっと明るくなった。停留所の前のカフェのネオンが点滅しているのだった。
うなだれていた顔をあげて、ふとその方を見ると、真っ白に白粉をつけて、カフェの入口に立っている女の視線と打っ突かった。
「お兄さん。おはいりやすな」女は眼のまわりに皺をつくって、笑った。その笑いがネオンの色に、赤く染まり青く染った。
豹一はあわてて視線をそらし、寒々とした気持で坂を登りかけたが、だしぬけに、
(あの女を口説いてやろう)と、変なことを思いついた。
豹一はひきかえして、カフェのなかへはいって行った。入口に立っていた女が傍へ来た。
豹一はぱっと赧くなった切りで、物を言おうとすると体がふるえた。呆れるほど自信のないおどおどした表情と、すべての女に対する嫌悪と復讐の気持に凄んだ表情を、交互にその子供っぽい美しい顔に泛べながら、豹一はじっと女を見据えていた。
その夜、その女は豹一のものになった。自分から誘惑して置いて、
「お前は馬鹿な女だ」と、言ってきかせ、醜悪に固くなっている女のありさまを、残酷な快感を味いながら、じっと見つめた。そして、女をさげすみ、自分をさげすんだ。女は友子といい、豹一より一つ年下の十九歳だ
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