きんきんした顔で、
「ああ、びっくりした。お前やったんか。どないしてたんや。阿呆やな。こんなところからはいって来る人があるかいな。さあ、あっちからはいらんかいな」叱りつけるように言った。
「ここからでも良えやろ」豹一はぼそんと打《ぶ》っ切ら棒に言った。
それで、母子の挨拶になった。水いらずの気持だった。
「ほんまにどないしてたんや。会社の仕事やったんか。字がなんぼでも書けるんやさかい、手紙ぐらい出さんいう子があるかいな」嬉しさの照れかくしに、そんな風に叱りつけていたが、やがて奥へすっこんで、「豹一が帰って来ましたぜ」安二郎に言っていた。
安二郎の呶鳴りつけるような声が、咳ばらいと一緒にきこえて来た。豹一はちょっと身がすくんだ。その拍子に多鶴子の顔がだしぬけに頭をかすめた。すると、眼の前が血の色に燃えて、安二郎の前に出た豹一の顔は今日はじめての生気を取り戻していた。呶鳴りつけるなら、勝手に呶鳴りつけろといった顔であった。
そんな顔色を見なくとも、安二郎はむろん呶鳴りつけたいところであった。しかし、安二郎はじっと我慢した。
安二郎にとっては、豹一が半月家をあけようと、一月家をあけようと、そんなことはどうでもよかった。ただ、三日前の節季に豹一がいなかったということは、はなはだ残念なことであった。貰うべき下宿代も貰えなかったのだ。それだけが癪だった。だから、顔を見るなり、呶鳴りつけたい気持だったが、しかしさすがに安二郎は慎重だった。下手に呶鳴りつけて、怒らすと再び飛び出してしまうおそれがあると、豹一の気性をのみこんでいたから、お君が嬉し涙をこぼしたほど、口調を柔らげたのである。
「家をあけるのは、そら構へんぜ、しゃけど、きまりだけはきちんとしといてもらおう。節季はもう過ぎてるぜ」それだけを言った。
頭から呶鳴りつけて来るものと身構えていたから、豹一はすかされた気持だった。
(なるほど、金のことを言いやがったわい)豹一は思わずにやりと微笑した。
一見はなはだ和かな風景であった。
「利子をつけてお渡しします」
「いつくれるんね?」
「今夜お渡しします」
「そうか? 間違いなや」
安二郎はちらと上機嫌な表情を見せた。お君が豹一のために食事を出してやっているのを見ても、この際いやな顔はせぬことにした。
母親の給仕でお茶漬を食べていると、豹一はじーんと気が遠くなるほど
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