くなったどころか、「猿に毛が三本増えたって猿が幸福になれるもんか。そのでん[#「でん」に傍点]で文化が進歩したって、人間が幸福になれると思うのは、大間違いだ」かつての自分の意見を否定し、おまけにその口調がふざけたものになってしまった、「文化人になりたいか? よし、五十銭出せ! 文化人にしてやる!」若い記者がしきりに映画論をやっているのを見ると、必ずそんな意味のいやがらせを言った。
土門は社会面の特種以外に映画批評も担当していたが、「キングコング」のような荒唐無稽な映画だけを褒めた。なお、飛行機や機関銃の出て来ない映画は、土門の批評によればつまらないというのだった。日本の映画では大都映画をしきりに褒めていた。レヴューが好きで、弥生座のピエロ・ガールスのファンだった。今日土門が豹一と弥生座の前で会うことにしたのも、じつはピエロ・ガールスを見るためであった。
七時過ぎになってやっと土門はひょろ長い姿を見せた。
「さあ、はいろう、はいろう」待たして済まなかったとも言わず、さっさと弥生座のなかへはいって行った。豹一は切符をどうするのかとちょっと迷ったが、そのまま土門のあとに随いてはいった。「お切符は……?」豹一は入口でそうきかれた。赧くなった。
「金を取る気か! 取るなら、取れ! 但し、子供は半額だろう?」土門は済ました顔で、入口の女の子にそう言った。
「ああ、お連れさんですか?」女の子は豹一が土門の連れだとわかると、「お二階さん御案内!」と、わざと大きな声で言った。
「いや。階下で結構です。階下の方がなんとなくよく見えますからね」
土門はそう言って、黒い幕のなかへはいった。舞台では「浪人長屋」という時代物の喜劇がはじまっていた。
土門は豹一と並んで席に就くと「一《ぴん》ちゃん!」と呶鳴った。すると、おそろしく長い顔をした浪人者が、舞台の上からきょろきょろ客席の方を見廻した。そして、土門の顔を見つけると、いきなり頭に手をあてて、あっという間に鬘を取ってしまった。観衆はどっと笑った。浪人者は済ました顔で鬘を被り、芝居を続けた。
「あれは中井|一《ぴん》というんだ。顔が長いだろう? だから、長井|一《ぴん》とよぶ奴もある。僕の親友です」土門は豹一にそう説明した。そして、また呶鳴った。「森|凡《ぼん》!」
ひどくしょんぼりした顔の小柄な浪人者が、横眼で土門の方を見て、ウイ
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