るのだ。
「どや、今晩つきあわんかね?」土門にすすめられて、豹一は断り切れなかったのである。
「債権者の方から逃げる手はないぞ!」一応断ると、土門はそう言った。豹一は土門のような男には尻込みしたさまを見せたくないと思った。たとえ地獄へ一緒に行こうというのであっても……。また、土門が天国へ行こうという筈もないわけだ。それだからこそ、一層尻込みしたくなかったのである。

      五

 その日、夕方の六時に豹一は弥生座の前で土門と落ち合うことになっていた。
 豹一は約束の時間より少し早目に弥生座の前に立っていた。冬の日は大急ぎで暮れて行った。六時を過ぎても土門は姿を見せなかった。しょんぼり佇んで千日前の雑閙に注意深く眼を配っていると、なにか新社員のみじめさといったものが寒々と来た。道頓堀の赤玉のムーラン・ルージュが漸くまわり出して、あたりの空を赤く染めた。待たされている所在なさに、ぼんやり赤い空を仰いでいると、いきなり若い女の体臭が鼻をかすめた。レヴュガールが三人、ぽかんと突っ立っている豹一の前を通り過ぎたのだった。弥生座へはいって行くその後姿を見て、豹一はふとそのなかの一人が靴下も穿かぬ足を寒そうに赤くしているのに、心を惹かれた。
 土門はなかなか現れなかった。豹一にとっては気の毒な話だが、土門は約束の時間を守らないことで定評があった。遅れて来ることもあれば、むやみに早く来ることもある。早く来た時は、相手の来ぬ間にしびれを切らして帰ってしまうので、結局来ないのと同じ結果になるのだった。今日は遅れて来るつもり――いや、土門に「つもり」などがあろうか、ともあれ遅れて来るらしい。当分豹一は待たねばならない。
 土門が来るまでに、大急ぎで土門に就いて述べて置こう。
 土門は自分では五十歳だといいふらしているが、本当は三十六歳である。しかし、如何にも三十六歳らしい顔をしている土門の印象を捉えることは容易ではない。つまり非常に老けて見えたり若く見えたりするのだ。土門は自分自身の印象を変えるために、随分苦心していると、思われる節がある。たとえば豹一が見たのは頭髪をむやみに伸ばして眼鏡を掛けたところだったが、一月経てば、丸坊主になり、眼鏡を外してしまっていないとは保証出来ないのである。夏にスキー帽を被って、劇場へ現われたりする。毎年一回昇給するその翌日は、必ず洋服を着変えて出社し
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