ー、お茶でも飲みに行ったのやろかと思いまして心当りあちこち探しにやっているのでありますが、どこへ逐電しましたのか皆目見当がつかない状態でありますので、とりあえず私が代役することになりました」笑い声が起ったが、しかし直ぐ止んだ。「――えー、そういう訳で、大変お待たせしまして、恐縮です」
 その時給仕があわててはいって来て、壇上の男に何か耳打ちした。
「えー、いまその男から電話が掛って来たそうであります。実は食事に行っているそうでありましてそれがまたとても暇の掛る店と見えまして、当分帰れそうにないから、誰か代ってやってくれということであります。とにかく私が代役するぶんには変りありません」
 豹一はこのふざけた「演説」に腹を立てるべきかどうかちょっと考えた。しかしずり落ちそうな眼鏡のうしろで眼をしょぼつかせているその男の印象はそんなに悪くなかったから、豹一はわざわざ席を立つこともしなかった。
「いま給仕が問題用紙を配ります。余白に答案を書いて下さい。時間の制限はありません。しかし、夕方まで掛ったりされますと、私が大いに迷惑します。――答案が出来ましたら、ここへ持って来て下さい。そして帰って下すってよろしいです。結果は追って――」いい掛けて、大声で、「おい、そうだな?」と給仕に問うた。給仕はうなずいた。「――結果は追って通知することになっています。えー、それから煙草は御自由に」
 豹一は三本目の煙草を吸っていた。
 問題用紙が配られた
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一、作文「新聞の使命に就て」
二、左の語を解説せよ
 Lumpen
 室内楽
 A la mode
 Platon
[#ここで字下げ終わり]
 そんな問題だった。横文字を読むために問題用紙を横に動かす音が、サラサラと鳴った。豹一の傍の席でしきりに鉛筆を削っていた男が、暫く問題を見つめていたが、いきなり立上って、
「こら帰った方が得や。一人しか採れへんのに出来もせん試験を受けても仕様があらへん」豹一にきこえるように言って、こそこそと出て行った。すると、これを見ならうように、つづいて三人出て行った。
 豹一は居残って答案を書くことに、ちょっと拘泥った。なんだか出て行った人に済まないとも思われた。が、いま出て行っては、あいつは答案が書けないのだと軽蔑されるおそれがあると思い、辛うじて席に止った。答案を書いていると、ふっと鎰《
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