手《もと》があったら、今日び金儲けの道はなんぼでもおます。正月までに五倍にしてみせます」横堀はにわかに生き生きした表情になった。
「ふーん。しかし五倍と聴くと、何だかまた博奕にひっ掛りそうだな。あれはよした方がいいよ。人に聴いたんだが、あれは本当は博奕じゃないんだよ。博奕なら勝ったり負けたりする筈だが、あれは絶対に負ける仕組みだからね。必ず負けると判れば、もう博奕じゃなくて興行か何かだろう。だから検挙して検事局へ廻しても、検事局じゃ賭博罪で起訴出来ないかも知れない、警察が街頭博奕を放任してるのもそのためだと、嘘か本当か知らんが穿ったことを言っていたよ。まアそんなものだから、よした方がいいと思うな」
「いや、今度は大丈夫儲けてみせます」
と、横堀は眼帯をかけながら、あれからいろいろ考えたが、たしかにあの博奕にはサクラがいて、サクラが張った所へ針の先が停ると睨んだ、だから今度はまず誰がサクラと物色して、こいつだなと睨んだらその男と同じ所へ張れば、外れっこはないんだとペラペラ喋って、
「――ま、見てとくなはれ。わても男になって来ま」
そう言ってソワソワと出て行った後姿を二階の窓から見ると
前へ
次へ
全67ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング