った。
十二月二十五日の夜、やっと大阪駅まで辿りついたが、さてこれからどこへ行けば良いのか、その当てもない。昔働いていた理髪店は恐らく焼けてしまっているだろうし、よしんば焼け残っていても、昔の不義理を思えば頼って行ける顔ではない。宿屋に泊るといっても、大阪のどこへ行けば宿屋があるのか、おまけに汽車の中で聴いた話では、大阪中さがしても一現《いちげん》で泊めてくれるような宿屋は一軒もないだろうということだ。良い思案も泛ばず、その夜は大阪駅で明かすことにしたが、背負っていた毛布をおろしてくるまっていても、夏服ではガタガタ顫えて、眼が冴えるばかりだった。駅の東出口の前で焚火をしているので、せめてそれに当りながら夜を明かそうと寄って行くと、無料《ただ》ではあたらせない、一時間五円、朝までなら十五円だという。冗談に言っているかと思って、金を出さずにいると、こっちはこれが商売なんだ、無料《ただ》で当らせては明日の飯が食えないんだぞと凄んだ声で言い、これも食うための新商売らしかった。大人しく十五円払うと所持金は五十円になってしまった。
夜が明けると、駅前の闇市が開くのを待って女学生の制服を着た女の
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