のに同情したのとで、何とかしてこれを救おうという心情を起し、物質的並に精神的方面より援助を与え彼女を品性のある婦人たらしめようと力を尽したのでした」
 こんな体裁のいいことを言っているが、しかし校長は二度目に「寿」へ行った時、「非常に気の毒に思」った女に酌をさせながら、けしからぬ振舞いに出ようとしている。女は初めは初心らしく裾を押えたりしていたが、やがて何の感情もなく言いなりになった。校長は彼女の美貌と性的魅力に参ってしまったのだ。「救いがたい悪癖」と言っているが、しかしこの悪癖が校長を満足させたのだ。だから上京すると言われて驚き、じゃ時々東京で会うことにしよう。上京した彼女が一先ず落ち着いた所は、ところもあろうに昔彼女が世話になったことのあるいかがわしい周旋屋であった。文部省へ出頭する口実を設けてしばしば上京するたび、宿屋へ呼び寄せて会うていた校長は、さすがに彼女のいわゆる「叔母の家」の怪しさを嗅ぎつけた。校長はまず彼女に触れたあと、急いで手や口を洗うてから、男女の仲は肉体が第一ではない、精神的にも愛し合わねばならん、お前が真面目になるというなら、金を出してやるから料理屋でも開いたら
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