た非国民もいるものだ、こういう非国民が隣組にいるのは心外であるという意味のことを言って、カンカンになって帰って行った。それと行きちがいに、また隣組から、今日の昼のニュースを聞けと言って来た。
 畏れ多い話だが、玉音は録音の技術がわるくて、拝聴するのが困難であったが、アナウンサーのニュースを聞いているうちに、
「あッ、戦争が終ったのだ!」
 と、直感された。
 さすがの王仁三郎も五日間おくれてしまったわけだと、私は思った。しかし、彼は戦争が十五日に終ったことを聴いて、自分の予言を間違ったと思ったであろうか、それとも当ったと思ったであろうか、彼の言分を聴いてみたいと思った。
 直ちに知人を訪問すると、
「大変なことになりましたが、命だけは助けていただきました」
 と、知人はいう。
 たしかに、軍部は国民を皆殺しにしようと計画していたのだが、聖上陛下が国民の生命をお救い下すったのであると、私は思った。
 知人の家で話をしていると、表を子供たちが、
「――兵隊さんのおかげです……」
 という歌を、歌いながら通って行った。
「皮肉な歌ですね。たしかに兵隊のおかげですよ」
 町へ出ると、車内や駅や
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