へこたれるような人じゃない。不死身だ」
私は再びそう言った。
四月一日の朝刊を見ると、「武田麟太郎氏急逝す」という記事が出ていた。
私はどきんとした。狐につままれた気持だった。真っ暗になった気持の中で、たった一筋、
「あッ、凄いデマを飛ばしたな」
という想いが私を救った。
「――今日は四月馬鹿《エープリルフール》じゃないか」
そうだ、四月馬鹿だ、こりゃ武田さんの一生一代の大デマだと呟きながら、私はポタポタと涙を流した。
そして、あんなにデマを飛ばしていたこの人は寂しい人だったんだ、寂しがり屋だったんだと、ポソポソ不景気な声で呟いていた。
新聞に出ている武田さんの写真は、しかしきっとして天の一角を睨んでいた。
[#地から1字上げ](「光」昭和二一年五・六月合併号)
底本:「世相・競馬」講談社文芸文庫、講談社
2004(平成16)年3月10日第1刷発行
底本の親本:「織田作之助全集 第六巻」講談社
1970(昭和45)年7月
初出:「光 五・六月合併号」
1946(昭和21)年6月
入力:桃沢まり
校正:富田倫生
2006年4月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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