にそう思っている。私は自信家だ。いやになるくらい己惚れ屋だ。私は時に傲語する、おれは人が十行で書けるところを一行で書ける術を知っている――と。しかし、こんな自信は何とけちくさい自信だろう。私は、人が十行で書けるところを、千行に書く術を知っている――と言える時が来るのを待っているのだ。十行を一行で書く私には、私自身魅力を感じない。しかし、やがて十行を何行で書くか、今のところ全く判らないという点に私は魅力を感じている。私はまだ全く自分にあいそをつかしたわけではない。私は私にとっても未知数だ。私はまだ新人だ。いや、永久に新人でありたい。永久に小説以外のことしか考えない人間でありたい。私の文学――このような文章は、私にはまだ書けないという点に、私は今むしろ生き甲斐を感じている。といってわるければ希望を感じている。それが唯一の希望だ。文学を除いては、私にはもうすべての希望は封じられているが文学だけは辛うじて私の生きる希望をつないでいるのだ。目的といいかえてもよい。
底本:「定本織田作之助全集 第八巻」文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日発行
1995(平成7)年3月20日第3版発行
初出:「夕刊新大阪」
1946(昭和21)年9月
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2007年4月25日作成
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