し、あわてて、
「――でも、切符送って下されば、どんなに忙しくても聴きに行きますよ」
どうやら、あなたのせいで歌が好きになりましたと、やっと甘い言葉が言えて、ほっとしたが、全身汗だらけだった。
それから、二週間のちの夜、赤井の新作落語が放送された。
第五スタジオの控室で、放送開始時間を待っていると、給仕が、
「赤団治さんに御面会です。お宅の奥さんが受付へ来ておられます」と、知らせに来た。
「えっ、女房が……? 新聞を見て来よったんやろか。すぐ行きます。おおけに……」
飛び上って出て行こうとすると、佐川が、
「赤団治さん、そろそろ放送時間です」
と、停めた。
赤井はやがて、傍にいた白崎が、
「何々しようとした途端に、際どい所で故障がはいるのは、俺だけじゃなかったな」
と言う言葉を背中に聴きながら、放送室へはいって行った。
底本:「定本織田作之助全集 第五巻」文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日発行
1995(平成7)年3月20日第3版発行
初出:「キング 三月号」
1946(昭和21)年3月
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2007年4月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全7ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング