、人間が人間を忘れるために作られた便利な言葉に過ぎないと思った。なぜ人間を書こうともせずに、「世相」を書こうとしたのか、新吉ははげしい悔いを感じながら、しかしふと道が開けた明るい想いをゆすぶりながら、やがて帰りの電車に揺られていた。
一時間の後、新吉が清荒神の駅に降り立つと、さっきの女はやはりきょとんとした眼をして、化石したように動かずさっきと同じ場所に坐っていた。
底本:「聴雨・蛍 織田作之助短篇集」ちくま文庫、筑摩書房
2000(平成12)年4月10日第1刷発行
初出:「真日本」
1946(昭和21)年6月
入力:桃沢まり
校正:松永正敏
2006年7月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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