…」と一つ文句の浄瑠璃をくりかえしくりかえし稽古しているのを、父親が蝙蝠傘の骨を修繕しながら口真似していた――そんなことまで想い出されて、自安寺の表門を出ると、
「お君ちゃん、文楽でも見えへんか?」
と言った。
「そうでんなあ」
迷っていると、
「文楽見たことある? 僕も見たことないけど、久し振りに大阪へ来た序でにいっぺん大阪らしい味を味わうとこ思て」
次郎は言った。
「ええもんや言うことは聴いてまっけど……」
しかし、本当に次郎と一緒にそんなとこへ行ってもよいものかと、君枝は躊躇した。
「どうせ、今日はお祭やろ?」
重ねて次郎に誘われると、君枝は水掛け地蔵へお詣りしたことで気が軽くなっていたせいもあり、うなずいた。
千日前の電車通りを御堂筋の方へ折れて、新橋の方へ並んで歩く途々、君枝は、
「文楽いうたらね、蝶子はん、この頃浄瑠璃習たはるんでっせ」
蝶子の噂をした。
「蝶子はんて、あの種さんとこの?」
「そうだす」
「維康さんどないしたはりまんねん? さっき千日前の剃刀屋覗いたら、居たはれへんかったけど……」
次郎が言うと、君枝は、
「あそこ廃めはったんは、そらもう古い
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