も消え入らんばかり懐《なつか》し」
同二十六日[#「同二十六日」に白丸傍点]――夜十時記す「屋外は風雨の声ものすごし。滴声相応ず。今日は終日霧[#「霧」に丸傍点]たちこめて野や林や永久《とこしえ》の夢に入りたらんごとく。午後犬を伴うて散歩す。林に入り黙坐す。犬眠る。水流[#「水流」に丸傍点]林より出でて林に入る、落葉を浮かべて流る。おりおり時雨[#「時雨」に丸傍点]しめやかに林を過ぎて落葉の上をわたりゆく音静かなり」
同二十七日[#「同二十七日」に白丸傍点]――「昨夜の風雨は今朝なごりなく晴れ、日うららかに昇りぬ。屋後の丘に立ちて望めば富士山真白ろに[#「富士山真白ろに」に丸傍点]連山の上に聳《そび》ゆ。風清く気澄めり。
 げに初冬の朝なるかな。
 田面《たおも》に水あふれ、林影|倒《さかしま》に映れり」
十二月二日[#「十二月二日」に白丸傍点]――「今朝霜、雪のごとく朝日にきらめきてみごとなり。しばらくして薄雲かかり日光寒し」
同二十二日[#「同二十二日」に白丸傍点]――「雪[#「雪」に丸傍点]初めて降る」
三十年一月十三日[#「三十年一月十三日」に白丸傍点]――「夜更けぬ。風死し林
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