ねって出てきたり、また林の間に半円を描いて隠れてしまう。林の梢に砕《くだ》けた月の光が薄暗い水に落ちてきらめいて見える。水蒸気は流れの上、四五尺の処をかすめている。
大根の時節に、近郊《きんごう》を散歩すると、これらの細流のほとり、いたるところで、農夫が大根の土を洗っているのを見る。
九
かならずしも道玄坂《どうげんざか》といわず、また白金《しろがね》といわず、つまり東京市街の一端、あるいは甲州街道となり、あるいは青梅道《おうめみち》となり、あるいは中原道《なかはらみち》となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地《りんち》田圃《でんぽ》に突入する処の、市街ともつかず宿駅《しゅくえき》ともつかず、一種の生活と一種の自然とを配合して一種の光景を呈《てい》しおる場処を描写することが、すこぶる自分の詩興を喚《よ》び起こすも妙ではないか。なぜかような場処が我らの感を惹《ひ》くだらうか[#「だらうか」はママ]。自分は一言にして答えることができる。すなわちこのような町外《まちはず》れの光景は何となく人をして社会というものの縮図でも見るような思いをなさしむるからであろう。言葉を
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