ばたきをして雄鶏《おんどり》が時をつくる、それが米倉の壁や杉の森や林や藪に籠《こも》って、ほがらかに聞こえる。堤の上にも家鶏《にわとり》の群が幾組となく桜の陰などに遊んでいる。水上を遠く眺めると、一直線に流れてくる水道の末は銀粉を撒《ま》いたような一種の陰影のうちに消え、間近くなるにつれてぎらぎら輝いて矢のごとく走ってくる。自分たちはある橋の上に立って、流れの上と流れのすそと見比べていた。光線の具合で流れの趣が絶えず変化している。水上が突然薄暗くなるかとみると、雲の影が流れとともに、瞬《またた》く間に走ってきて自分たちの上まで来て、ふと止まって、きゅうに横にそれてしまうことがある。しばらくすると水上がまばゆく煌《かがや》いてきて、両側の林、堤上の桜、あたかも雨後の春草のように鮮かに緑の光を放ってくる。橋の下では何ともいいようのない優しい水音がする。これは水が両岸に激して発するのでもなく、また浅瀬のような音でもない。たっぷりと水量《みずかさ》があって、それで粘土質のほとんど壁を塗ったような深い溝を流れるので、水と水とがもつれ[#「もつれ」に傍点]てからまっ[#「からまっ」に傍点]て、揉《
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