《はぐさ》、藁《わら》の嫌いなくそこら一面にからみついた蜘蛛《くも》の巣は風に吹き靡《なび》かされて波たッていた。
自分はたちどまった……心細くなってきた、眼に遮《さえぎ》る物象はサッパリとはしていれど、おもしろ気もおかし気もなく、さびれはてたうちにも、どうやら間近になッた冬のすさまじさが見透かされるように思われて。小心な鴉《からす》が重そうに羽ばたきをして、烈しく風を切りながら、頭上を高く飛び過ぎたが、フト首を回《めぐ》らして、横目で自分をにらめて、きゅうに飛び上がッて、声をちぎるように啼《な》きわたりながら、林の向うへかくれてしまッた。鳩《はと》が幾羽ともなく群をなして勢いこんで穀倉のほうから飛んできた、がフト柱を建てたように舞い昇ッて、さてパッといっせいに野面に散ッた――アア秋だ! 誰だか禿山《はげやま》の向うを通るとみえて、から車の音が虚空《こくう》に響きわたッた……」
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これはロシアの野であるが、我武蔵野の野の秋から冬へかけての光景も、およそこんなものである。武蔵野にはけっして禿山はない。しかし大洋のうねりのように高低起伏している。それも外見には一
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