やつら、人にものを頼む時はわいわい言って騒ぐくせに、その事がうまくゆくと見向きもしないんだ。人をばかにしてやアがる。だから大将に、どちらでもいいからだめだとかできるとか、明白に早く決定を与えてもらいたいと言ってくれたまえ、大将あれでばかに人がいいから、頼むとなんでもかんでもそうしてやらなければならんと心得てるからやりきれない。中に立ってる者はありがた迷惑だ。」と言ってるうちに上着を着てしまう、いつ大森がベルを押したか、女中がはいって来た。
「これは奇妙不思議だ、中西へ手紙をやろうとすると、お蝶《ちょう》さんがやって来る、争えんものだ、」と大森が十七八の小娘に手紙を渡す[#底本では句読点なし。20−8]
「アラまたあんな事をおッしゃる、中西さんなんかなんでもないワ、ほんとにあたしくやしいわ、みんなしてからかうんだもの」と手紙をふんだくるように取って「いいわ、そんな事をおッしゃるならこのお手紙をどっかへうっちゃってしまうから。」
「イヤあやまった、それは大切の手紙だ、うっちゃられてたまるものか、すぐ源公に持たしてやっておくれ。お蝶《ちょう》さんはいい子だ。」
「蝶ちゃんはいい子だ、ついでに
前へ
次へ
全7ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング