今一ツ六蔵の妙な癖を言いますと、この子供は鳥が好きで、鳥さえ見れば目の色をかえて騒ぐことです。けれども何を見ても「からす」と言い、いくら名を教えても覚えません。「もず」を見ても「ひよどり」を見ても「からす」と言います。おかしいのは、ある時白さぎを見て「からす」と言ッたことで、「さぎ」を「からす」に言い黒めるという俗諺《ぞくげん》が、この子だけにはあたりまえなのです。
高い木のてっぺんで百舌鳥《もず》が鳴いているのを見ると、六蔵は口をあんぐりあけて、じっとながめています。そして百舌鳥《もず》の飛び立ってゆくあとを茫然《ぼうぜん》と見送るさまは、すこぶる妙で、この子供には空を自由に飛ぶ鳥がよほど不思議らしく思われました。
四
さて私もこの哀れな子のためにはずいぶん骨を折ってみましたが、目に見えるほどの効能は少しもありませんでした。
かれこれするうちに翌年の春になり、六蔵の身の上に不慮の災難が起こりました。三月の末でございました、ある日朝から六蔵の姿が見えません、昼過ぎになっても帰りません、ついに日暮れになっても帰って来ませんから田口の家では非常に心配し、ことに母親
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