「いよいよ何日《いつ》と決まった?」と女の顔をじっと見ながらたずねた。女は十九か二十《はたち》の年ごろ、色青ざめてさも力なげなるさまは病人ではないかと僕の疑ったくらい。
「あす、あさって、明々後日《やのあさって》」と女は指を折って、「やのあさってに決まったの。しかしね、わたしは今になって、また気が迷って来たのよ」と言いつつ首をたれていたが、そっと袖《そで》で目をぬぐった様子。その間に徳二郎は手酌《てじゃく》で酒をグイグイあおっていた。
「今さらどうと言ってしかたがないじゃアないか。」
「それはそうだけれど――考えてみると、死んだほうがなんぼ増しだか知れないと思って。」
「ハッハッヽヽヽヽ坊様、このねえさんが死ぬと言いますが、どうしましょうか。……オイオイ約束の坊様を連れて来たのだ、よく見てくれないか。」
「さっきから見ているのよ、なるほどよく似ていると思って感心しているのよ。」と女は言って、笑いを含んでじっと僕の顔を見ている。
「だれに似ているのだ。」と僕は驚いてたずねた。
「わたしの弟にですよ、坊様を弟に似ているなどともったい[#「もったい」に傍点]ない事だけれど、そら、これをご
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