《うち》十五人三分と記《しる》してござります』
と講義録の口調《くちょう》そっくりで申され候間、小生も思わずふきだし候、天保生まれの女の口からワッペウなどいう外国人の名前を一種変てこりんな発音にて聞かされ候ことゆえそのおかしさまた格別なりしかば、ついに『ワッペウさん』の尊号を母上に奉ることと相成り候、祖父様の貞夫をあやしたもう時にも
『ワッピョーワッピョー鳩ッぽッぽウ』
と調子を取られ候くらい、母上もまたあえて自らワッペウ氏をもって任じおられ候、天保できの女ワッペウと明治生まれの旧弊人との育児的衝突と来ては実に珍無類の滑稽《こっけい》にて、一家常に笑声多く、笑う門《かど》には福来たるの諺《ことわざ》で行けば、おいおいと百千万両何のその、岩崎|三井《みつい》にも少々融通してやるよう相成るべきかと内々《ないない》楽しみにいたしおり候
しかし今は弁当官吏の身の上、一つのうば車さえ考えものという始末なれど、祖父《じい》様には貞夫もはや重く抱かれかね候えば、乳母《うば》車に乗せてそこらを押しまわしたきお望みに候間近々大憤発をもって一つ新調をいたすはずに候
一|輛《りょう》のうば車で小児も喜び
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