のお邪魔になるとサ』
『坊やがやかましいのではないお前がしゃべるのだよ』
『オヤオヤ今度は母様《かあさん》がしかられましたよ、ね坊や父様が、「やかましッ」て、こわいことねえ、だから黙ってねんねおし』
「困るね、そんな事を言っても坊にゃわからないのだからお前さえ黙ればいいんだよ』
『貞坊や、坊やはお話がわからないとサ、「わかりますッ」てお言い、坊やわかりますよッて』
 右の始末に候間小生もついに『おしゃべり』のあだ名を与えてもはや彼の勝手に任しおり候
 おしゃべりはともかくも小供のためにあの仲のよい姑《しゅうとめ》と嫁がどうして衝突を、と驚かれ候わんかなれど決してご心配には及ばず候、これには奇々妙々の理由《わけ》あることにて、天保《てんぽう》十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれの妻《さい》よりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党なることこそその原因に候なれ、妻はご存じの田舎者《いなかもの》にて当今の女学校に入学せしことなければ、育児学など申す学問いたせしにもあらず、言わば昔風の家に育ちしただの女が初めて子を持ちしまでゆえ、無論小児を育てる上に不行き届きのこと多きに引き換え、母上
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