から、喜んでいるところを彫るのが平凡ならばだ、がっかりしているところだって平凡だろう、どうですね、中倉の大先生、」と「加と男」やや得意なり。
「だって君のようなのもない、君は号外が出ないと生きている張り合いがないという次第じゃアないか。」と中倉翁の答えすこぶるよし。
「じゃア僕ががっかり[#「がっかり」に傍点]の総代というのか」と加藤男また奇抜なことをいう。
「だから君はわれわれの号外だ。」と中倉翁の言、さらに妙。加藤君この時、椅子《いす》から飛び上がって、
「さすが、中倉大先生様だ、大いによかろう、がっかりしたところ、大いによかろう、ぜひ願います、題して号外、妙、妙、」と大満足なり。
それから一時間ばかり、さらに談じかつ飲み、中倉翁は一足《ひとあし》お先に、「加と男」閣下はグウグウ卓にもたれて寝てしまったので、自分はホールを出た。
銀座は銀座に違いないが、なるほどわが「号外」君も無理はない、市街までがっかりしているようにも見える。三十七年から八年の中ごろまでは、通りがかりの赤の他人にさえ言葉をかけてみたいようであったのが、今ではまたもとの赤の他人どうしの往来になってしまった。
前へ
次へ
全13ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング