ながら思わず『マサカ死《しの》うとは思わなかった!』と叫びました。全くです、全く僕は叫びました。
「そこで僕は思うんです、百人が百人、現在、人の葬式に列したり、親に死なれたり子に死れたりしても、矢張り自分の死んだ後《あと》、地獄の門でマサカ自分が死うとは思わなかったと叫んで鬼に笑われる仲間でしょう。ハッハッハッハッハッハッハッハッ」
「人に驚かして貰《もら》えばしゃっくり[#「しゃっくり」に傍点]が止るそうだが、何も平気で居て牛肉が喰《く》えるのに好んで喫驚《びっくり》したいというのも物数奇《ものずき》だねハハハハ」と綿貫はその太い腹をかかえた。
「イヤ僕も喫驚《びっくり》したいと言うけれど、矢張り単にそう言うだけですよハハハハ」
「唯《た》だ言うだけかアハハハハ」
「唯だ言うだけのことか、ヒヒヒヒ」
「そうか! 唯だお願い申してみる位なんですねハッハッハッハッ」
「矢張り道楽でさアハッハッハハッ」と岡本は一所《いっしょ》に笑ったが、近藤は岡本の顔に言う可からざる苦痛の色を見て取った。
底本:新潮文庫『牛肉と馬鈴薯・酒中日記』
1970(昭和45)年5月30日発行
入力:八木正三
校正:LUNA CAT
1998年5月23日公開
1999年8月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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