集まりて何事をか評議まちまち、立てるもあり、砂に肱《ひじ》を埋めて頬杖《ほおづえ》つけるもあり。坐れるもあり。この時日は西に入りぬ。
評議の事定まりけん、童らは思い思いに波打ぎわを駈けめぐりはじめぬ。入江の端《はし》より端へと、おのがじし、見るが間に分《わか》れ散れり。潮《うしお》遠く引きさりしあとに残るは朽《く》ちたる板、縁《ふち》欠けたる椀《わん》、竹の片《きれ》、木の片、柄の折れし柄杓《ひしゃく》などのいろいろ、皆な一昨日《おととい》の夜の荒《あれ》の名残《なごり》なるべし。童らはいちいちこれらを拾いあつめぬ。集めてこれを水ぎわを去るほどよき処、乾ける砂を撰《えら》びて積みたり。つみし物はことごとく濡《うるお》いいたり。
この寒き夕まぐれ、童らは何事を始めたるぞ。日の西に入りてよりほど経《へ》たり。箱根|足柄《あしがら》の上を包むと見えし雲は黄金色《こがねいろ》にそまりぬ。小坪《こつぼ》の浦《うら》に帰る漁船の、風落ちて陸近ければにや、帆《ほ》を下ろし漕ぎゆくもあり。
がらす[#「がらす」に傍点]砕け失せし鏡の、額縁《がくぶち》めきたるを拾いて、これを焼くは惜しき心地すという児《こ》の丸顔、色黒けれど愛らし。されどそはかならずよく燃ゆとこの群の年かさなる子、己《お》のが力にあまるほどの太き丸太を置きつついえり。その丸太は燃えじと丸顔の子いう。いな燃やさでおくべきと年上の子いきまきて立ちぬ。かたわらに一人、今日は獲もののいつになく多きようなりと、喜ばしげに叫びぬ。
わらべらの願いはこれらの獲物《えもの》を燃やさんことなり。赤き炎《ほのお》は彼らの狂喜なり。走りてこれを躍《おど》り越えんことは互いの誇りなり。されば彼らこのたびは砂山のかなたより、枯草の類《たぐ》いを集めきたりぬ。年上の子、先に立ちてこれらに火をうつせば、童らは丸く火を取りまきて立ち、竹の節の破るる音を今か今かと待てり。されど燃ゆるは枯草のみ。燃えては消えぬ。煙のみいたずらにたちのぼりて木にも竹にも火はたやすく燃えつかず。鏡のわく[#「わく」に傍点]はわずかに焦《こ》げ、丸太の端よりは怪しげなる音して湯気を吹けり。童らはかわるがわる砂に頭押しつけ、口を尖《とが》らして吹けどあいにくに煙眼に入りて皆の顔は泣きたらんごとし。
沖《おき》ははや暗うなれり。江の島の影も見わけがたくなりぬ。干潟《ひ
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