居るのであるが、その紙の製造もまた、最初に支那人によつて發明されたのであります。支那で紙を發明したのは、東漢時代の蔡倫と云ふ人である。蔡倫以前には、木とか竹とか、又は帛などに書寫したのであるが、木や竹は重量も重く、持ち運に不便で、帛は價不廉で、皆實用に適しませぬ。そこで蔡倫が色々と工夫して、遂に樹皮・麻屑・敝布《ふるぎれ》などを原料として、今日の所謂紙を造つた。是が普通謂ふ所の紙の製造の起源であります。丁度東漢の第四代目の和帝の元興元年(西暦一〇五)のことであります。今日世界に現存してゐる一番古い紙は恐らく西晉の武帝の泰始六年(西暦二七〇)及び元康六年(西暦二九六)のデートのある古寫經であらうと思ふ。これらは支那で紙が發明されてから、僅々百七八十年後のもので、前者は英國のスタイン博士が敦煌方面で發掘した一小紙片で、後者は西本願寺から派遣した中央アジア探檢隊が、新疆から持ち歸つた寫經である。
 所が西域の方では、その當時書寫の材料として使用したのは、パピルス即ちカヤツリ紙か、または獸皮を滑した革紙即ちパルチメントであつた。支那の唐の中頃、西暦の八世紀の半頃までは、西域でも歐洲でも、今日謂
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