當時の記録にも明瞭にその事實が記載されて居るし、又近年新疆や敦煌方面から出て來た佛典のうちに、確に唐時代の刊本と認定されるものもあります。我が日本の稱徳天皇の御代(西暦七六四―七七〇)に作られた、例の百萬塔の中に納められた陀羅尼《ダラニ》の印本も、時代は丁度唐の中頃に當り、西暦八世紀の半頃のものであります。日本の稱徳天皇の御代の印刷は、日本で發明したものか、唐から傳へたものかといふ事については、いろいろ議論がありますが、日本の印刷の歴史のことを餘程調べて居つた、もとの英國の公使のサトウといふ人が、日本の印刷はどうしても支那から傳へたものだと申したことがある樣に記憶しますが、私も同樣な考をもつて居ります。そは兎も角も。この陀羅尼の印刷といふものが、今日世界に現存して居る印刷物の中で、最も古くて尤も年代の確なものであることは、爭ふべからざる事實であります。さきに申した通り、近年支那の新疆や甘肅方面から、古い印刷物も發見されるが、遺憾な事には年代がはつきり明記されてをらぬから、又たまに明記されて居つても年代が下るから、我が國の百萬塔中の陀羅尼に比較すると、價値が減ずる譯であります。
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