水準1−89−22])との寺院を總べて、三夷寺と稱して居る。かく區別する時は、胡※[#「しめすへん+天」、第3水準1−89−22]はゾロアスター教に限つて、マニ教を含まぬ筈である。されどマニ教も、※[#「しめすへん+天」、第3水準1−89−22]教(ゾロアスター教)も、等しくペルシアに行はれ、また等しく明暗の二宗を説けば、宗教の内容などに不注意勝な支那の學者は、時にマニ教をも胡※[#「しめすへん+天」、第3水準1−89−22]の中に混同したかも知れぬ。
要するに『兩京新記』に據ると、西暦八世紀の半頃に、長安に景教の寺もあり、又※[#「しめすへん+天」、第3水準1−89−22]教の寺もあつた。ただマニ教の寺の有無はやや不確であるが、恐らく洛陽と同樣に長安にも存在したことと想像される。玄宗の孫の代宗の時代になると、囘※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]人が多く長安に來往し、これら囘※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]人がマニ教に歸依したから、自然長安に大雲光明寺といふマニ教の寺が建立された(『資治通鑑』唐紀五十三)。大師の長安に到着された頃には、長安にマニ教の寺院の存在したこと勿論である。此等諸外教のことに就いては、さきに紹介した榊博士の講演を參考されたく、更に唐代のネストル教に關しては、アヴレ(Havret)氏の著書があり、マニ教に關しては、シャヴァンヌ(Chavannes)及びペリオ(Pelliot)二氏合著の論文があるから、此等の著書や論文を參考あれば、一層結構と思ふ。
今の長安縣の學習巷の清眞寺内に、玄宗の天寶元年(西暦七四二)に建設されたと傳へらるる創建清眞寺碑が現存して居る。この碑を信憑するならば、大師入唐の頃には、長安に上述の三夷寺以外に、更にイスラム教(囘教)の寺院もあつた筈である。されどこの碑は、私が嘗つて證明した如く(明治四十五年七月の『藝文』參看)、明代の僞作であるから、是に由つて當時長安に囘教の寺院の存在を確認することが出來ぬ。ただ大師入唐の頃イスラム教徒が、商業上や政治上の目的で、尠からず長安に往來したことは事實である。
(六)長安に於ける大師
大師が我が遣唐大使藤原葛野麻呂の一行に加つて、長安に到着された當初は、その一行と共に、支那政府から指定された宣陽坊の官宅に宿泊された。普通ならば皇城内の鴻臚寺の客館にでも就く筈であるのを、この時支那政府の都合で、我が一行は皇城外の宣陽坊の公館に安置されたものと見える。遣唐大使が所定の任務を果して、翌年の順宗の永貞元年、即ち我が延暦二十四年(西暦八〇五)の二月十日に長安を出發して、歸朝の途に就くと、その日から大師は公館を辭して、西明寺に引越をされた。
西明寺は右街の延康坊の西南隅に在つた。唐の高宗の顯慶三年(西暦六五八)の建立で、印度の祇園精舍の規模に倣つたものと傳へられて居る(『續高僧傳』卷四)。我が近江の梵釋寺の永忠が十數年留學した寺で、大師の起臥さるることになつた居室は、即ち二十幾年以前に、永忠僧都の起臥した居室である。大師の高弟で、大師より約六十年後に入唐せられ、更に海路印度に法を求めんとて、中途の羅越國――今のマレー半島の南端シンガポール附近に在つたかと想はれる國――で逝去された高岳親王も、一時ここに滯在された。兎に角日本の佛教界にとつて、因縁のもつとも深い寺である。この寺は牡丹の名所で、白樂天や元※[#「禾へん+眞」、第3水準1−89−46]の詩集中に、西明寺牡丹と題する詩が見えてゐる。大師の入唐時代より約四十年を經て、武宗の會昌五年(西暦八四五)五月に、天下の佛寺を廢し、長安城中に僅に四個寺だけ存在を許した時、この西明寺は、その四個寺の一として存續を許されたほどの名刹である。
この西明寺は西市に近い。長安には東市と西市とあるが、西市の方が盛大で、外國商人は多くここに來集した。囘※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]商人と共に、マニ教徒も多くこの西市に往來した樣である。ペルシアや大食の商賈も、尠からずこの西市に出入して居る。又西明寺附近には、景教の寺院や※[#「しめすへん+天」、第3水準1−89−22]教の寺院も存在するから、研究心の深く、知識慾の盛な大師は、西明寺滯在中に、定めし此等の異教徒又は彼等の寺院に對して、相當の注意を拂はれたことと想ふ。二月から六月まで約四ヶ月間、大師は西明寺に滯在しつつ城内の名刹を訪ひ、大徳を叩いて請益されたことは、その「上[#二]新請來經等目録[#一]表」に、周[#二]游諸寺[#一]、訪[#二]擇師依[#一]といへる通りである。この周游された寺院の中に、玄奘三藏と特別の關係ある、晉昌坊の大慈恩寺や、不空三藏と特別の關係ある、靖善坊の大興善寺等の存すべきは殆ど疑を容れぬ。
その六月に
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