に使用した暴秦とか無道秦とかいふ語が、所謂先入主と爲り、吾人の腦裏に拔くべからざる印象を存して居て、始皇帝といへば、直に破壞壓制を連想する程である。いかにも始皇帝に幾多の缺點短處があらう。しかし之が爲に彼の美點長處まで全然沒了するのは偏頗である。過酷である。〔已に司馬遷もこの點は六國表に注意して、
[#ここから2字下げ]
秦取[#二]天下[#一]多[#レ]暴。然世異變。成功大。傳曰。法[#二]後王[#一]何也。以[#下]其近[#レ]己而俗變相類。議卑而易[#上レ]行也。學者牽[#二]於所[#一レ]聞。見[#下]秦在[#二]帝位[#一]日淺[#上]。不[#レ]察[#二]其終始[#一]。因擧而笑[#レ]之。不[#二]敢道[#一]。此與[#二]以[#レ]耳食[#一]無[#レ]異。悲夫。
[#ここで字下げ終わり]
と述べて居る。〕虚心にして考へると、始皇帝が支那歴代の君主中、稀有の大政治家であり、又その立てた制度が、久しく且つ廣く後世に影響して居ることは、到底否定し難い事實と思ふ。又その人格も、一般に信ぜられて居るよりは、餘程善い方面があると思ふ。この批評の當否は、彼が一生の事蹟を根據として、
前へ
次へ
全37ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング